HELLO, HELLO WORLD![めとこ] (公式ページ / あつまーる / ふりーむ)
女子中学生「寿永遠子」が、なんでも屋や探偵などの力を借り、行方不明になった兄を探す探索RPG。
公式では本作を「ポップで最凶なクトゥルフ神話RPG」と定義しており、クトゥルフ神話作品の系譜となります。序盤から「世界は滅亡に向かっている」「大陸が消失した」などの非日常な噂がメインイベントや町のモブ会話から出ています。
ポップでキュートな世界観でジュブナイルなクトゥルフ
クトゥルフ神話を唄っていながら、本作の序盤・中盤はクトゥルフ的な不穏要素が噂ぐらいで何も見えません。
ピンクや黄色を中心としたパステルカラーな街並み、ポップでキュートなキャラ達の日常、軽快で可愛いテクノポップを中心としたカラフルな音楽など、中身は年頃の女の子が夢に見そうな雰囲気で統一しています。物語もクトゥルフ的な探索よりも、むしろ町のモブ達の日常会話や主人公が知人達と過ごす姿の方を鮮明にプッシュアップしています。
▲色合いが可愛らしい美観マップ。
▲メニュー画面。キャラと知り合うとキャラが増えます。また、ウィンドゥっぽいUIもポップ&キュートで世界観に合っていてGood。
クトゥルフ的な物語と同レベルで町の人達の日常生活やキャラ達の友情を描くことも重要視しており、ジュブナイルRPGとしても成り立っている作品です。ゲーム全体から見ても日常生活の配分は7,8割であり、クトゥルフ的な話はその余りのみです。
キャラ達の友情はメインイベントで描かれます。探偵にお願いすることにより、だんだん仲良くなっていく探偵の男性とその助手の女の子、女子大生の3組、そして顔に紙を貼っている不思議ななんでも屋の男性。彼ら彼女らのやり取りは、ポップなCGを用いながら青春の一枚となりそうな日常で覆われています。
▲永遠子と知り合う方達。
▲1枚絵もポップで日常的な雰囲気が全面に出ています。
また、途中からキャラ達の交流を永遠子の部屋の写真立てを調べることにより主役たちを主軸としたサブエピソードを楽しむことができる機能が追加されます。こちらでも過去にあったキャラ達との日常の日々を楽しむことができます。
次に、町の人達の日常生活を見せるためのシステムが「情報ポイント」システムです。永遠子はなんでも屋に兄を調査してもらうことの交換条件で、町の噂を集めることになります。
ゲームシステムとしては、町で人に話したり物を調べると「情報ポイント」を入手します。これが一定値になることで次のメインイベントが進み、翌日になります。
日常会話的な内容も情報ポイントになるため、町のモブ達と適当に話していたら次のメインイベントに進むことになります。つまり、町のモブ達と会話するためのシステムでしょう。不穏な話が交じりながらも、基本は町の人達の日常が描かれます。特に重要な話題はほとんどありません。実は何気ない会話も、あることに対する壮大な伏線で2周目をプレイすると全然違った意味に聞こえるのですが、この時点では全く分からないので純粋に日常を楽しむゲームとなります。
▲意味のない会話で何故、情報ポイントが入るのか不思議でした。本作では、違和感は全て意味があるんですよね。
また、クトゥルフ神話TRPGなどに慣れていると、突っ込みたい小ネタが山のように出てきます。あくまでフレーバー的な邪神っぽいキャラが登場したり、コンビニの名前があれっ?って思ったり。物語には関係ないけど、楽しい要素。伏線を隠す効果もありました。
▲2枚目はコンビニの看板を見てください。
見た目に反してクトゥルフの様式美に従った本格的なコズミックホラー
ところで、クトゥルフは日常空間に非日常空間が知らないうちに混じってくることが一種の様式美となっています。普段通りに暮らしていたら知らないうちに宇宙的親和生物の庭に潜り込んでいたぐらいに。本作はこの非日常空間がプレイヤーや主人公の目からなかなか見えない構造になっています。
兄の失踪の真相を探るうちに見つかる兄の気配、町の不穏な噂など、これらが一気に収束し、クトゥルフ要素満載の後半に進みます。日常が穏やかだった期間が長いため、完全な非日常に突入した際の雰囲気の落差は凄まじく、怒涛の真相編に迫ります。ここではちょっと難易度高めの避けゲーがあります。スマホのタップだと難しいのでPC推奨かな。私はあつまーる版をスマホでプレイしていて、ここで詰まったのでPC+ジョイパッドに切り替えました。
▲暴動がおきてもおかしくないレベルの噂もちらほら。そういえば、こんな中、平穏に暮らしている町の人々達。
クトゥルフ神話のコズミックホラーの概念が日本ホラーや西洋ホラーと何が違うの?と聞かれると宇宙的・圧倒的存在だと人間などゴミクズみたいな抽象的な概念で説明があるのですが、現代のライトノベルにそんな敵は溢れているので、それの何が怖いの?となるわけです。実際、私はTRPGリプレイをニコニコでよく見ていた派ですが、考察が面白いという印象で怖さがあるリプレイはそれほどありませんでした。
ところが、本作は正直、コズミックホラーの何たるかを知りました。心がぞわぞわした。日本的な怨霊も西洋的なゾンビも出ません。本作に登場するのは人間には立ち向かうことができない圧倒的なまでの冒涜的な何か、つまりクトゥルフ系神話生物です。人間に抗えることのできない存在の恐怖を体感しました。
また、クトゥルフのエンドは基本的に破滅的大団円、綺麗でハッピーな終わり方をしたのに、破滅を予感させるなど、後味が悪かったり、心から恐ろしさが沸き上がるような終わり方が様式美です。本作のラストのオチは数あるクトゥルフ神話系オリジナル創作話の中でも特に印象に残りそうです。クトゥルフ神話らしい結末ながら、しっかりと伏線を回収し、それでいてプレイヤーが(感情的に)納得しそうな結末を迎えます。私は読了感が良いのか悪いのか分からない奇妙な状態に陥りました。
プレイヤーの感情を揺さぶるようなラストなので、是非プレイして体感してほしいゲームです。
あつまーるのクトゥルフ的考察が世界設定構築を楽しむ上で役立つ
なお、クトゥルフを強調しましたが、本作はクトゥルフ未経験でもプレイに支障がないようなシナリオです。作中の人物もクトゥルフなど知りません。クトゥルフを知っていると、裏の世界観構造が見えてくるわけですが、あくまで裏は裏であり、物語の感動も恐怖もクトゥルフの知識無しに味わうことができます。
クトゥルフ的な様式美に包まれながらも神話知識無しに楽しめる本作はクトゥルフ神話未経験者には、入門編と言っても良さそうな作品です。
また、本作のプレイは、あつまーるでのWEB版とふりーむでのダウンロード版があります。が、個人的にあつまーる版を推しておきます。あつまーる版は、クトゥルフ関係の小ネタやメインシナリオでも神話的なテキストの後には、「この親和生物は●●かな」みたいな考察コメントがリアルタイムで流れます。クトゥルフ神話を強調しましたが、本作は神話生物の名前は一切出ず、あくまで匂わすだけです。現時点では、核心的なネタバレは特になく、作品の知識を拡げる考察ばかりで、プレイしながら大変ありがたかったです。なお、神話生物の名前を出さないのもクトゥルフ様式美の1つです。
プレイ時間は2時間ほど。私は実は、プレイした瞬間から世界観構造は見抜いていて3日目あたりで確信に至りました。でも、どうしてそのような世界観なのかはなるほどと思いましたし、それが判明した時に様々な真相を伝えているにも関わらずラストのオチは意表を突かれました。ラストを推理できた方はそういないのではないでしょうか。
本格的クトゥルフでありながら入門的作品でもあるので、クトゥフル未経験者も経験者もプレイしてみてほしい1作です。これだけオチが後味よい訳でもないのに心に残る作品も珍しい。
なお、作者は本作の前日譚となるTRPGシナリオ「ぼくらの空想都市計画」をBoothで発売中です。また、後日談的な新作も開発に着手しています。今後も楽しみなシリーズです。
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