【ビジュアルノベル】一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう レビュー

一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう_物語2

カバーアート 一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう
一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう[ウォーターフェニックス](DMM)(iTunes)(Google Play)

価格:480円

当感想はiOSのプレイで行っています。

末期状態の終末SF作品

終末SF作品です。普通の高校生活を送っていた主人公「鏡夜」は突然未知の世界で目覚めました。そして何故か一切動かせず、食事も必要としない体。身動きができない状態で困っていましたが、ある日そこに世界を旅している少女が現れました。少女によると、ここは「戦争により人類を含む生物が死に絶えた世界」。鏡夜は生きている人間を探し出すため、少女に動けない自分の持ち運びをお願いして一緒に旅をすることになります。
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そして少女が旅する目的は人類の贖罪。神様から戦争にて生物を滅ぼした人間の贖罪をするため、過去に死亡した全哺乳類(人間・犬・猫など)の死を体感することを義務付けられています。死の気配がある場所に少女が訪れると、少女の身体はその人が死亡した時と同じ状態になり、少女も苦しみながら死亡します。しかし、その後すぐに少女は生き返ります。神様からそのような身体を与えられたためです。そして鏡夜が見ている前で何度も少女は苦痛に塗れた死を体感し生き返ることを繰り返します。鏡夜は、生きている人間を探すことと共に、少女の贖罪を取りやめる方法も模索することになります。
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▲火で死亡した人間がいる場所では、炎が噴き出して焼死。イラストの残酷描写そのものはテーマでは無いので抑えられています。テキストは一部グロい箇所がありますが。

戦争後に人類が絶滅した終末世界を舞台にしており、その世界観は鬱そのもの。終末世界は様々なSF物語に登場しますが、食物無しで生きられる鏡夜や不死身の少女という特殊事情が無ければ生きることもできない末期な世界観はそうそう見かけるものではありません。過去の文明は遺跡・廃墟となっており、自然は破壊され、食料も見当たりません。鳥の鳴き声も水のせせらぎも、そして蟻一匹もおらず、生命の鼓動が一切感じられません。旅をしながら見えてくる現在の姿や少女の贖罪は常に鬱々としており、希望も救済も見えません。また、少女は死を体感する時、その死者が死亡するまでの数秒をリアルに感じます。そのため、滅びた世界でありながら、戦争の悲劇や戦争後ゆるやかに滅びゆく人類の様子が描かれます。
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また、この絶望感を裏付ける設定としては、立ち絵が用意されているキャラは少女のみです(イベントCGでは鏡夜など別キャラが登場することもありますが)。つまりゲーム全編を通して語り部は鏡夜と少女のみです。世界に2人しか知的生物がいない寂しさが伝わり、また、後述する依存関係の強まりを実感できるプロット構成になっています。

ダークシリアスなテーマながら本質は心の絆と成長の物語

鏡夜と初めて出会った少女は自分を「人間」と名乗り、感情も無く無機質に知っていることのみを喋る、まるでロボットのようなキャラとして描かれています。融通が利かず、聞かれたことのみに答え、その喋り方も淡々としています。特に出会った当初はボサボサの髪で顔を隠していたこともあり、鏡夜は少女を「化け物」と表現してしまいます。
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▲序盤の少女はホラー探索ゲームに出てくるかのような不気味なテイストで描かれます。

序盤はその化け物らしさがゲームでも強調され、何度死んでも生き返る身体、(髪で隠れて)目の見えない顔、(現代人にとっては)意味の分からない価値観などが表に出ています。やがて、一緒に旅するうちにそれらが誤解であることはすぐに分かります。すると、少女が苦しむことに納得のいかない鏡夜は少女に名前を与え、服探しを提案し、遊びを教えます。少女に生きることの喜びを教えようとします。

少女はだんだんと感情が表に出てきて、「楽しいこと」を知るようになってきます。鏡夜(プレイヤー)は少女の変わりゆく姿に魅力を覚えていくでしょう。そして、鏡夜も最初は少女以外の生き残りを探すこと、自分の身体を動かせるようにすることが主目的でしたが、だんだんと変化して少女への依存性を高めていきます。
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▲神様に教えられたことを頑なに守ろうとする少女と、彼女の心を解きほぐそうとする鏡夜

そして、言葉にしなくてもお互いに無くてはならない存在となっていく2人。しかし、少女が何度も死ぬことを神様に義務付けられたことはただの一例であるかのように、様々な問題が2人に襲い掛かってきます。特に後半、神様は1人の少女にどれだけ苦しみを与えればよいの?と文句を言いかけたくなるほどに、「死を体験する」以外の苦悩を鏡夜と少女に味合わせます。問題が解決したかと思ったら次の問題が噴出してしまい、安息の日々がありません。

この世界で最終的に鏡夜と少女はどんな結論を下すのか、最後まで目が離せませんでした。

王道展開ながらも先が気になり続ける良プロットでダークな作風

別作品の結婚主義国家でも感じたことですが、ウォーターフェニックスの伏線はあからさまと言ってよいほど単純です。少なくともラノベやアニメを嗜んでいるユーザーにとっては、伏線トリックで感動することはほぼ無いと思います。また、物語も単純調和的なもので予測しやすいものです。その上で、伏線トリックに頼り切っておらず、物語構造に上手く伏線をはめ込んで感動的な物語を作ることを重視しています。ウォーターフェニックス作品が人気になった理由はこのあたりにあるかなと思っています。

例えば鏡屋は何故か食物を必要とせず、その場から動くことができません。この情報を知った瞬間(ほぼオープニング)から、主人公の正体は予測できていました。たぶん、ある言葉はブーメランとなって鏡夜に返ってくるのだろうなとも想像できていました。そして、おおよそその通りの展開が中盤で繰り広げられました。

ここまでは、伏線は単純だよ程度の話です。しかし、ウォーターフェニックスの作品にはそういう伏線トリックそのものはバレてもかまわないよという前提でシナリオが組まれています。まず、単純に物語そのものを感動的に仕上げること。先が予測できても、文章使いやプロットの作り方そのものが素晴らしく、伏線があるからこその感動物を作り上げています。また、基本的に伏線の回答を用意するだけでは無く、その上を用意しています。「主人公の正体が実は〇〇だった。」で終わりでは無く「〇〇だった主人公の心境とその後の用意」、「〇〇だからこそできる見せ場」みたいなものも一緒に用意しています。つまり、伏線の落ち着かせ方・使い方がものすごく上手いのです。

そして、単純な伏線の中に複雑な伏線をこっそり紛れさせる手法にはやられました。本作は序盤に鏡夜が述べた事柄が後半になると鏡夜を逆に苦しめる言葉のブーメランが、一種の言葉遊び的に出現します。上記で述べたように、たぶんこの言葉はブーメランになるだろうなと予測できるものもあります。しかし、数が多いと単純であっても全てを予測できるものではありません。突然、別のブーメランが主題になったシナリオが始まった途端に鳥肌が立ちました。このおかげで先の展開が読めつつも、一部読めない箇所が出てきて、先が常に気になる物語になっているように感じます。このように、こっそりとバレない伏線も複数紛れ込ませています。

プレイ時間は約3時間ほど。文章的な無駄が全く無い短編で、笑いやコメディ関係が一切無いダークシリアスな物語です。人を選びそうな作品であるものの、読了後に不思議な余韻を残してくれます。音楽やイラストとの調和も良く、価格分の価値はじゅうぶんにあるノベル作品かと思います。

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