【ビジュアルノベル】one night, hot springs レビュー

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one night, hot springs_タイトル
one night, hot springs[npckc](itch.io)(Google Play)

iOSはありません。
価格:無料

当感想は、steam版にて行っています。

普通の人の何気ないイベントがトランスジェンダー女子だと果てしない挑戦になってしまう話

主人公のハルは身体が男で心が女のトランスジェンダーとして子供の頃から生きてきた女性。ある日、彼女は友人に温泉旅行に誘われて、女の子3人でお泊りすることになります。本作はトランスジェンダー女子が友達の女の子と3人で泊まった旅館での一夜を描いたビジュアルノベルです。日本では珍しい海外製ビジュアルノベルエンジン「Ren’Py」を使用しており、その快適性も売りの一つ。
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▲常に可愛らしい絵柄で進みます。この選択肢は後述しますが、とても重い選択。

キャッチフレーズは「トランスジェンダー女子が温泉に行く」。男湯は女として肌を見せたくないためNG、そして女湯は客が男に覗かれているように感じられるためNG。つまり一般的には温泉に浸かるだけの単純な話なのに、トランスジェンダーとなると、とてつも無い問題になるのです。プレイヤーはトランスジェンダー視点になりきり、この種の問題を実体験することになります。その中でトランスジェンダー女子の人生観・葛藤・世間のイメージなどが伝わってくる構成になっています。

つまり世間へのトランスジェンダーの理解を深めてもらうためのメッセージ性が高いアプリにもなっています。その一方で私達が普段知らないトランスジェンダーを扱ったドキュメンタリー、そして心温まる読了感の良いエンターテイメント性のある物語にもなっています。プレイヤーは夢中で先が気になる物語を読んでいくことで、トランスジェンダーへの理解が深まるようになっています。

イラストはビジュアルノベルでよく見るようなオタクっぽい絵柄は一切無く、どことなくファンシーで可愛いキャラ、デフォルメされた背景で統一されています。立ち絵キャラは差分も数枚用意され、背景は何種類も用意されています。わずか20分ほどの内容ですが、どれだけのリソースを注ぎ込んだのかと感嘆する量です。背景・立ち絵・文章・音楽全てオリジナル。基本的に淡い落ち着く色合いで統一されています。
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▲伝えたいことを伝えるイラストの描き方。

女の子が描いたような雰囲気になるように調整されています。ビジュアルノベル=アニメの延長上にある絵柄という印象が強い日本で、この種の統一感はとても新鮮でした。そして、この絵柄や雰囲気がハルの女の子らしさをより実感させています。また、友人との会話では、ファッションやおしゃれの話などいわるゆガールズトーク的な内容がありますが、男性では思いつけないようなセリフがどんどん出ており、こんなところでも女らしさを感じる一面も。

トランスジェンダーの理想を描くことで物語の面白さを出し、そして現実の問題が見えてくる構造

本作はある意味、トランスジェンダーの理想を突き詰めようと考えた作品かもしれません。トランスジェンダーに理解のある友人、今まで理解は無かったけど理解しようとする新たな友人、そしてトランスジェンダーに配慮してくれる宿の従業員。ハルちゃんの性格なら、友人関係で理解ある方は、きっかけがあればできると思いますが、従業員関係はびっくりするぐらい理解があってビックリ。
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▲トランスジェンダーについて積極的に聞き込みをしてくる新たな友人。ここでは、何が聞いても問題なくて、何が聞いてもよいかと試行錯誤しながらの話になります。

そして、理解ある理由が分かると、店では無く従業員個人の理由なので納得。彼ら彼女らの心配りの結果、温泉旅行を心から楽しめるかは選択肢、つまりはハルの行動にかかっています。相手側が配慮してくれるのだから、自分側が配慮すれば、成功するのは当たり前かもしれません。
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▲過剰なまでに遠慮を心掛けてしまうハルちゃん。だけどいざ勇気を出せば、相手も心遣いを見せてくれます。

本作プレイ後に「トランスジェンダー 温泉」などで検索してみましたが、本作内ほど配慮してくれそうな宿を見つけることはできませんでした。また、混浴温泉巡りをするなど、体と折り合いをつけて自分なりの楽しみを見出す方もいます。つまり、ネットで調べると今の日本では本作内のような宿のサービスを受けれる確率が0とは言わずとも、非常に低いことが分かります。

ここでプレイ中の選択肢が重要になってきます。

一度クリアすると、社会の仕組み・対人相手の反応など様々な差別を受けてきたことをプレイヤーが自身のように体験します。1周目は単純に分岐のための選択肢だと思っていたのですが、、上記を理解して再プレイすると選択肢の重さが実感できるようになります。

例えば一番初めの選択肢は温泉旅行に行くかどうか。諦めるとそこで物語が終わってエンディングに進むため、「行く」しかないのですが、数々の温泉宿で拒まれた実績があると、ここで「行く」選択を選ぶことは非常に勇気がいることだと分かります。それい付随するように、後の選択肢も主に積極的・消極的の2拓になっており、ゲームとしてはどれを選べばよいか簡単に分かる選択肢が続きます。

本作にはハートマークがあり、心にダメージを受けるネガティブな選択肢を選ぶと減少していきます。シナリオ分岐には全く関係ないシステムですが、このハート1つの重みもクリアするとある程度見えてくるでしょう。

色々書きましたが、ほんわかした気分になれる話なので、気軽に遊んでみるとよいかと思います。ビジュアルノベルとしても新機軸なので様々な同ジャンルを遊んだ方こそ本作は楽しめるかもしれません。短編ながら、色々考えさせられる話でした。また、トランスジェンダーの方にとっても明るい未来の1つの形を提示するゲームだと思います。

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