【並行世界・ループ系ビジュアルノベル】最悪なる災厄人間に捧ぐ レビュー

最悪なる災厄人間に捧ぐ_タイトル
最悪なる災厄人間に捧ぐ[KEMCO / ウォーターフェニックス] (PS4 / Switch / Google Play / itunes

対象:PS4,Switch,Android,iOS
価格:3,000円

KEMCOのレイジングループ作者amphibianが監修、ウォーターフェニックスのRがシナリオ・絵を担当した並行世界系のサスペンス作品です。私がプレイした感じだと、おそらくプロット・シナリオの9割はR氏が担当していて、おそらくamphibian氏やKEMOCO側は品質チェックやプログラム面での協力に留まっているのではないかと感じられます。

と言うのも、ゲーム全体に漂う、主人公・ヒロインに襲い掛かる世界からの陰鬱で絶望ばかりの圧力と、それを表現する執筆手法・プロット展開、そして物悲しげで不安感を煽る音楽は正にウォーターフェニックス1作目の「一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう」の再来だからです。常にダークシリアスな雰囲気が漂っています。最下にてレビューページをリンクしていますのでご確認を。改めて自分のレビューを読み返すと「最悪なる災厄人間に捧ぐ」でも同じテーマや執筆手法が使われているなと感じます。

絶望的な世界に取り残された男女の共依存関係と成長物語

本作は主人公を起点とした災厄から逃れようと踠く男女を描いた並行世界・ループものサウンドノベルです。並行世界・ループものゲームの弱点は、本格的なループに入るまで序盤のダルさとループの繰り返し演出による飽きだと思っているのですが、本作はその弱点を双方共に克服しています。

主人公「豹馬」は過去事故に遭ってしまい、その後から生き物(人間・動物・魚/肉などの動物系食べ物)を一切見る・聞くことができない後遺症を抱えてしまいます。豹馬は触感だけの家族や学校の元友人達に気持ち悪さを覚えて「透明人間」と称し、環境音のみの世界で生きることを与儀なくされます。絶望を送っていたある日、「人間の声・姿」をした女の子「クロ」を見つけます。彼女は逆に人間の言葉や姿が分かるけど、人間からは完全に見る・聞くことができない存在として孤独に生きていました。クロが人間側の言葉や行動を豹馬に教えることで、豹馬は人間社会で仮面を被れるようになり、2人は切っても切れない関係になっていきます。
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ヒロインは、幼い頃の母親からの虐待により人見知り且つ顔色を窺って怯えを見せます。また、主人公と出会う前は孤独であったため多くのトラウマを抱えています。幼い頃は語尾も少なく幼さが全開になったキャラ。まず、注意点として、ヒロイン像は美少女ゲーで登場する甘え・臆病・幼いなどがキーワードのキャラ性格をしています。それ故、癖が多いので多少のプレイヤーの好みは分かれるかも。並行世界・ループものを題材にした「ドラマ」部分が本テーマであり、さらに本文の9割が主人公「豹馬」とヒロイン「クロ」について扱っているため、2人の性格を受け入れれるかは非常に重要な部分です。
最悪なる災厄人間に捧ぐ_クロ1 最悪なる災厄人間に捧ぐ_クロ2
▲基本的に物語最後まで豹馬とクロの関係にスポットが当てられています。

と、いきなり序盤から目を引くハードモードな人生が始まり、どう克服していくのか気になってどんどん読みたくなります。ニトロプラスの名作ノベルゲーム「沙耶の唄」では、脳に障害を追って現実の風景・人間が化け物に見える郁紀と、人間には化け物だけど郁紀には唯一、人間に見える郁紀の関係が描かれますが序盤は本当にそっくりの状況です。

第三者視点や視覚・聴覚がおかしくなる過去編などを除き、基本的に豹馬視点の場合に用意されている立ち絵がクロしか用意しておらず、収録音声もクロのみです(このあたりも沙耶のデジャブを感じます)。その絶望とクロへの依存度は文章と立ち絵から伝わってきます。この中に後の伏線となる感情や世界の決まり事などを提示しるため、本格的なループが始まってからも頭を悩まされることなく物語に注力ができるようになっています。

本作は何故か5つの平行世界が繋がり5人のクロが登場します。豹馬は行き来できませんが、クロは世界観を行き来でき、ある世界観では豹馬の前に5人が同時に揃うことも。最初はどのクロも同じ服、同じ性格のため誰が誰だか見分けがつきません。
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▲クロが沢山で賑やかわいわいとしています。

ドラマのテーマとして、豹馬・クロの関係の変化、絶望に立ち向かうことでの心の成長があります。クロとの出会いは小学生あたりですが、物語は進むと中学校、高校とどんどん進みます。幼い頃の衣装はシンプルな黒一色だった事に対し、服のお買い物イベント後は5人のクロそれぞれが別の衣装に変化、又、中学・高校と身長が大きく、身体が女性らしく変化し、性格も若干異なるようになります。例えばあるクロは勉強好きで頭がよくリーダーシップを持ち、別のクロは純粋さと遊びが好きで喋り方もどこか子供っぽさを持っています。声優もそれぞれのクロで声質や喋り方を変えています。それでいて、やはり同一人物なのか、姉妹とは異なりそれぞれ芯は全く同じで、行動指針などはどのクロも同じ。
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▲成長する過程で一人一人の個性が確立していきます。このあたりは一卵性双生児のようなイメージかな。

最初は見分けが付かなかった5人のクロは、中学・高校になる頃にはすでに別人です。メインヒロインはクロ1人であると同時に複数のクロであると言えます。1カップルの成長物語であると当時に5カップルが相互に関係して成長していく物語です。なお、設定上は豹馬も世界観ごとに性格が異なります。ただし、クロと異なり、プレイヤーの見た目からは豹馬の性格は5つの世界観でほぼ共通(たぶん、これは地の文である豹馬の性格を変えることによる混乱を避けるためかと)。物語前半はいわゆる共通部に近く各ペア別に視点が次々変更します。中盤以降はこの中から順庵に1ペアが選ばれ、それぞれが災厄に抗う姿を描いていきます。共通部ではやはり似ているなと感じた5人も、個別パートでは本当に違いが分かり驚きます。この設定はあらすじにも現れており、どの世界観の豹馬視点で物語が進んでいるかが一目瞭然です。
最悪なる災厄人間に捧ぐ_あらすじ
▲現在、どの並行世界の豹馬視点かは、クロの衣装かあらすじで確認できます。

ちなみに一番私がお気に入りのクロは、一番ヤンデレな子です。

絶望に押しつぶされる強烈な世界観と抗うも無意味なループ

ウォーターフェニックスさんが製作する絶望系には特徴があります。それは小さな(それでも本人には巨大な)絶望や問題点を主人公に提示します。本作で言う小さな絶望は主人公達の身体異常に該当します。そして、交流や過去のトラウマとの向き合い、お互いの信頼を向上するなどの小さな問題と解決を繰り返すことにより、その絶望を少しづつ克服していきます。そして、人とは違う不幸だけど2人なら生きていける!と幸せを手に入れる瞬間!さらに大きな絶望を用意して落とすのです。そう、作中キャラをいじめ抜くかのようなシナリオ手法が基本となっています。
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▲序盤に関しても、視力・聴力問題だけでなく、2人は様々なトラウマを抱えています。

その新たな絶望を克服する手段を入手したと思ったら、さらなる絶望……の繰り返しです。つまり、ユーザーの目から見ると後は見守れば本人の努力次第で幸せにできる状況かと思ったら、これ無理ゲーじゃんと思うような新たな絶望を用意するわけです。そこが本作の面白さです。

さて、この各並行世界のカップル達は、ゲーム中盤から特にクロには大きな災厄が見舞われます。そして「幽霊」と呼ばれる豹馬を恨み並行世界間を行き来している存在が明らかに。実際に上記の聴力・視力を失ってから2人が成長するまででも短編1本分の内容となっていますが、それは言わばプロローグになり、ここからが本作の本当の本番。足掻いても足掻いても逃げられない絶望が二人に牙をむきます。初めて選択肢も出現。間違うとバッド直行になります。
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▲気が狂いそうになるほどの絶望感漂う災厄。

主人公はクロと世界を救うためにループを繰り返すことになります。本作の災厄は厳密な法則に導かれて発生しており、災厄の発生しない条件を見つけ出し、さらに条件を満たすよう行動するため試行錯誤していくことに。

本作のループ設定は複雑です。「Re:ゼロから始める異世界生活」のように短い期間のループを何回も繰り返す短期ループ。回数制限がある代わりに生前まで記憶を引き継ぐ長期ループ。そして並行世界間どうしの関わり。さらにループとは直接関係無い世界に関わる問題(例えば豹馬が視力・聴力を取り戻す方法やクロが透明から脱却する方法)とそれらとの関わり方、並行世界より上位視点からの干渉、複雑なプロットを作り上げています。

同時に序盤から少しずつ世界の秘密を分かりやすく提示することで、無駄なく頭にすっと入るよう、この並行世界のルールが頭に入ってきます。伏線が分かりやすいので、整理して推理をするのも良いでしょう。
最悪なる災厄人間に捧ぐ_世界観1 最悪なる災厄人間に捧ぐ_世界観2 最悪なる災厄人間に捧ぐ_世界観3
▲本格的なループ前に少しずつ知識を提供してくれます。

本作の並行世界観、その他世界設定の謎は論理的矛盾の無い舞台装置に徹しています。並行世界の概念やクロが死亡する理由、黒幕の謎を含めて完全に1つのピースに紐づくロジックとなります物語の謎が回収されるにつれ型がはまる論理パズルのような面白さがあります。理解が深まると、綿密なルールの元に構築された世界観や様々な謎にびっくりすることでしょう。他の並行世界ものより、この世界観ルールはビシッと決まるような厳密なルール作りをしている気がします。
最悪なる災厄人間に捧ぐ_外側1 最悪なる災厄人間に捧ぐ_外側2
▲豹馬を見守り続ける外の味方キャラ。そして、敵対キャラ。2人が何者かもひとつの謎。

その一方で、論理を導く流れを作るため、プロットに従って突然キャラが馬鹿になったり、その人物はそんな行動しないのでは?と思う部分も数カ所あります。また、世界の法則や条件、並行世界・災厄に関してはそのような法則ができた意図なども含めて最終的に全て明らかになります。が、並行世界とは別の面、透明人間関連など根本的世界観に関わる謎は不明点が残ります。発生条件や治療法などルールに関しては最終的に全て提示されるものの、なぜその装置を世界に用意する必要があるのか?みたいな話はそれこそ神のみぞ知る状態。このあたりは若干ホラー要素もあるかな。現時点で与えられた情報からの推理は不可能です。このあたりは同じ世界観を使った続編への布石のような気もします。後日談が読みたいので外伝かDLCは期待したいかな。

とは言え、世界観に関してはあくまで知的スパイスであり、本作の本質はやはり、この複雑怪奇な並行世界を解き明かす過程で深まる豹馬とクロの関係であると言えます。もう強烈なまでの共依存関係となっており、陰鬱とした暗い話とその中でのわずかな幸せが切込みのよい簡潔な文章で突き進んでいきます。もう何度、不幸を突き進んできた2人に対して幸せを与えてと祈ったことか。、

様々な並行世界を巡る豹馬とクロの関係はどうなるのか?プロットを本当にしっかり練ったのであろう、多くの方が満足に納得できる安定した結末を迎えたと思います。ここもウォーターフェニックスさんの素晴らしいところだと思うのですが、ある程度の不幸は決定した上で、それでもユーザーからは想像も付かない手法で、事件を解決させ、最終的に綺麗な落としどころへの道しるべを作っているんですよね。

プレイ時間は15時間ほど、ウォーターフェニックスの魅力が存分に出ている筆力と世界観で、とてつもない物語になっていると思います。立ち絵はほぼヒロインのみなのに(他の立ち絵もあるけど、重要キャラでもモブのような扱いで描かれています)、よくここまで話を盛り上げることができたなと。加えてKEMCOとの共作で実現できたであろう、物語後半にとある理由で出現する黒い靄の表現、並行世界を意識したシナリオリスト、各種画像エフェクト等でビジュアルノベルとしての品質が確実にあります。
最悪なる災厄人間に捧ぐ_モヤ
▲豹馬だけ見える画面端に漂う靄の演出。災厄までの時限が迫っている合図でもあり、けっこう怖い。

独特の陰鬱さや癖のあるヒロイン像で人を選ぶと思いますが、絶望的な世界の中でなんとか生き抜こうとする物語は是非体感してみて欲しいです。ちなみにウォーターフェニックスの作品である結婚主義国家1,2(合計4話分の短編で各話独立で完結しています)のスマホ版は無料なので、こちらも併せてどうぞ(3以降有料)。そして、「一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう」も是非。早速、全てノ作品ヲ、ぷレいしタいな。今すぐダウンロードしようカな。

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