World’s End Club -ワールズエンドクラブ-[イザナギゲームズ] (公式サイト / Apple Arcade)
ゲーム中盤のネタバレが含まれます。
突然荒廃した日本の鹿児島県に放り出された小学生達が、母校のある東京に向けて半日本横断の旅に出る横スクロールアクションパズル&アドベンチャーゲームです。1990年代中頃、携帯電話が初めて登場したあたりの時代が舞台。ダンガンロンパの小高和剛氏と極限脱出シリーズの打越鋼太郎氏のコンビで話題になっていた作品。これまでの両氏の作風の面影を強く残しながらも、がらっと雰囲気を変えた作風。
執筆時点では未完であり、完結編は2021年春のSwitch版発売頃になりそうです。
荒廃したディストピア日本が舞台のシナリオ重視横スクロールアクションパズル
馬鹿ばかりが集められたある小学校のクラスメイト達。彼らは1994年の修学旅行中、突然の隕石に見舞われ、気を失ってしまいます。その後、無口系男主人公の「れいちょ」が目覚めたのは閉鎖している海中遊園地。クラスメイト12人はジョーカーピエロっぽいマスコットによる案内により、デスゲームに強制参加させられます。洗脳されているのか、同じ仲間内なのに序盤から殺伐した雰囲気を出す中、なんだかんだで全員生き残り、施設から脱出するとそこは荒廃した鹿児島県。
▲オープニングでなんちゃってデスゲームが行われます。現時点でデスゲーム要素はここのみです。
人は見当たらず、ビルには年月が経ったかのように草木に覆われ、そして怪物や動く植物が道路を闊歩した異常な日本。クラスメイト達は人類の生き残りを探すため、そして母校や大切な人達の無事を確かめるために鹿児島から東京まで約1200kmの長い長い旅路に出ることになります。
▲人間が地上から姿を消し、緑で覆い茂った町なみが続く世界観
ゲームとしては、フィールドメニューでステージ・キャンプ・ストーリーを選択して進めていきます。
公式のコマーシャルでは、デスゲームものと誤認しそうなミスフューチャーがあるため、気を付けてください。なんちゃってデスゲームがチュートリアル的にあるだけであり、本筋は荒廃した日本各地を探索するサバイバルアドベンチャーゲームです。
似た世界観を持ったゲームは日本一ソフトウェアの「じんるいのみなさまへ 」や小高和剛氏が関わっていないダンガンロンパ製作チームが開発したスパチュンの「ザンキゼロ」などが近いかな。
ゲームジャンルは、「低難易度横スクロールプラットフォーマーパズル」 + 「ドラマ」です。基本的には2.5D演出満載のノベル寄り作風で、ドラマを重点的に描きつつも、日本横断の様子は横スクロールアクションという形で表現しています。そのためか、アクションパートの難易度は超低め。パズルについても作中キャラがヒントを沢山出してくれるため、詰まるような部分はありません。ただし、スマホ最適化が不十分か操作は若干やりにくい時も。
アクションパートは移動やキャラスキル、背景アセットや敵キャラ、さらには地形配置なども含めて、全てドラマパートを補完するような意味合いで作られており、ドラマをインタラクティブに体験できます。逆に本作にアクションとしての面白さは期待してはいけません。あくまで、物語の補完としてのアクションパートです。
▲ボス戦も、立ち向かうべき難しさやアクションの面白さというよりは、キャラのスキルをプレイヤーが使用してキャラの凄さを実感してもらうための装置という感覚。
例えば本作では、キャラが困難を克服した時に人知を超えたキャラ専用のスキルを習得します(現時点までのシナリオではなぜスキルを習得できるのかは不明)。例えば、れいちょは物を高速の超威力で投げれるようになり、敵に当てるとダメージを与え、物に当てると物を吹き飛ばします。
▲主人公のスキル。
自分には友人を守る力がないけど友人を助けたいと危機に陥ったキャラは石に変身して無敵になる能力を得ます。その後、そのキャラを動かすと石になって敵に体当たりするアクションが使用可能になります。また、そのスキルを使用しないと倒せない敵、進めないギミックも併せてセットで登場。
実際のスキル効果は重力反転や一定時間無敵など横スクロールアクションでお馴染みの機能ばかりですが、このようにノベル部とアクションパートを合わせることにより、このキャラ凄いんだぞーという表現を体感することになります。
▲口から火を噴射する能力。初めて覚える時はかっこいい演出あり。
博多や大阪など各都市のノベルパート背景やアクションパートでは、その地域が荒廃した様子を背景アセットや敵キャラなどで表現しています。町の他に川や森などもあり、さながら日本各地にダンジョンがあり、巡っている感覚。
アセットの使い方が贅沢で、各ステージで全く敵も背景も、そのステージで固有です。各ステージは短めだけど物語を楽しむ上では最適な長さ。ノベルだけなら本来いらなかった物を贅沢に使っている印象です。
海外インディーズゲームでは、このジャンルのストーリー性重視横スクロールアクションパズルは多々あります。ただ、これを日本企業が日本風な独自解釈のアレンジを施して取り入れたことは画期的なことかなと。
打越氏と日高氏の影に隠れていた長所が交じり合った日常生活延長上のサバイバル修学旅行
さて、上記でクリエーターの過去作と雰囲気が異なると記載しましたが、どこが異なるか。それは、氏達の得意とする常に緊迫感溢れるサスペンス展開よりも、キャラ一人一人にスポットライトを当て、日常生活にシナリオのウェイトを置いていることです。
本作で描かれるのは、荒廃世界を舞台にしながらも、真っただ中の青春物語です。
クラスメイト12人など作中キャラはそれぞれが魅力的に描かれます。無口だけど、転校生ながらクラスメイトをまとめるリーダー的に頼りにされている男主人公「れいちょ」、熱血な野球児且つバカだけどリーダーを目指す「関西」、皆に愛されているが、空気を読まない言動などで皆に喋っても無視されることがあるヒロイン「バニラ」などなど。
歩いて、時には自転車や様々な乗り物に乗りながらの西日本横断は、荒廃したとは言え、一種の観光旅行です。博多や大阪など各都市を訪れた際は、基礎知識を作中キャラが披露しながら仲間内でわいわい。
メインイベントと同頻度で出てくるのは「キャンプ」イベント。夜寝る前にれいちょが各キャラと話し、その時点でキャラが思っていることを教えてくれるイベントです。
▲仲間との交流イベント。みんなが一つの場所に集まり思い思いに過ごしている様は終末にも関わらず穏やかな空間。
それぞれのキャラは喧嘩して、時には分断して都市を移動しながらも(流石にこの状況で分断は子供とは言え危機感無さすぎだとは思ってしまいましたが)、だんだん一致団結していくクラスメイト達。各キャラの境遇や心にあるもやもやを解放していく達成感。クラスメイト達の友情。
また、各ステージで1,2人にスポットを当て、そのキャラを主役にしたドラマを描く手法を取っています。そのキャラを中心として悩みが描かれ、ステージ中の仲間の危機などで、そのキャラが活躍、悩みを克服するイベントも描かれます。各キャラのスキル覚醒やそのスキルを必要とするステージ構成などステージもドラマと連動しています。
元々、両氏は日常を苦手としているわけではありません。打越氏はEver17では大々的に日常生活にもウェイトを置いていました。その後「緊迫感が無い」と感想で叱られたためか、氏の今後の作品は日常描写が大幅に減りました。ダンガンロンパはメインパート以外に仲間達と交流するモードがありました。ただ、ボリュームはありつつもおまけのような要素で、無視してもクリアが可能でした。
ダンガンロンパはキャラが魅力だけど、日常パートは退屈な面もありました。反対に打越氏の日常パートは普通に面白いけどキャラの印象が残りにくい。つまり、両氏とも日常パートで良い面がありながらも、両氏の過去作はデスパートが優れ過ぎていたため、あまり話題にならなかったとも言えます。
そして、今回はおそらくキャラ作りや設定は小高氏、日常面のテキストは打越氏のような雰囲気があります。両氏の良い面を取っています。「関西」、「れいちょ」、「兄貴」のように単純明快なキャラの名づけ、「モーちゃん」は何かあると「モー」と言ったり食べ物に固執するなど、一発で記憶に残るほどの強いキャラの性格付けはダンガンロンパから引き継いでいます。その一方、ダンガンロンパほどの強すぎる個性付けをマイルドな日常に弱めたり、個性を活かしたキャラどうしの掛け合いを日常生活に落とし込むのは打越氏特有のテキストです。
また、小高氏は短い言葉を演出で補強することが得意で、そのためか打越氏特有の長文は控えめにし、なるべく短い言葉でセリフ廻しを考えています。賛否両論ありそうですが、打越氏特有のうんちく話も今回は短く切り上げて綺麗にまとまっています。
一方、シリアス面やメインシナリオもじょじょに伏線を集めている状態です。日高氏特有、シナリオの継ぎ目には想像の斜め上を行き、前提を覆すかのような伏線回収&ネタバラシもあります。現段階でもシナリオ序盤と中盤ではイメージが大きく書き換わり、現段階の伏線回収を知った状態で序盤から初めても2周目の印象は変わって見えるでしょう。
ですが、残念ながら現段階では伏線の回収に至っていなくて、モヤモヤが強かったりします。なぜ1990年中頃は私達プレイヤーの知る同時代と異なり荒廃しているのか、なぜ主人公達は人知を超えたスキルを覚えるのか、そしてシナリオ中盤・終盤に出てくる伏線なども含め、多くはまだ解決していません。
宣伝手法には疑問を呈する
最後に、本作のPR関連への問題点に言及します。本作の内容は荒廃世界サバイバルものであり、決して生死をかけたデスゲームものではありません。ところが、宣伝媒体・PR媒体には本編そのものがデスゲームものかに思えるよう誤認するような仕掛けが随所に施されていました。意図は分かります。デスゲームと思わせ、実はもっと構想練ってたんだよとプレイヤーに教えるため。日高氏が得意とする手法です。
また、今回のシナリオはおそらく過去作とは別の一面を見せたいとの開発側の考えがありそうです。しかし、同様にPR媒体からは想像できません。
購入者を楽しませるためとは言え、内容を誤認させ購入判断材料に影響を与えるCM手法は不誠実だし、いかがなものかと思います。内容物が、サバイバルものだと予め理解していたら購入しないプレイヤーへの返金対応が不可能なためです。また、本作は未完結ですが、宣伝媒体に現時点で未完結の文言は一切ありません。このあたりの宣伝手法には疑問を感じます(後者は大人の事情でおそらく開発陣側の問題ではなさそうですが)。
私は本作を楽しくプレイしましたが、本作を面白いと思う層と氏の過去作を面白いと思う層は現段階では全くの別ものです。
とは言え、PR手法が許せないのとゲームの面白さは別物のため、紹介しました。少なくとも、今後、横スクロール視点のドラマがもっと日本の有名ゲーム企業からもっと出て欲しいなと思うポテンシャルはありました。コンセプトさえ合うと分かれば、キャラ重視になり、日常部分が非常に面白い作品です。。ただし、現段階では伏線を集めるだけ集めて回収は次回持ち越しになっており、物語も佳境な段階で唐突に終わるので不完全燃焼になることは否めません。
現段階はキャラや世界観重視ではあるけど物語重視ではない状態です。予告から想像すると後半は現時点のシナリオから大きく変化し、緊迫感溢れるサスペンス展開になりそうです。小高和剛氏と打越鋼太郎氏が得意としている物語・シナリオ重視の一面が見えそうであり、又は見えることを期待しています。プレイ時間は8時間ほど。
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