Butterfly Soup(バタフライ・スープ)[Brianna Lei](itch.io)
対象:PC
価格:PWYW方式(望むだけ支払う方式で無料からプレイ可能)。$5以上払った場合は設定資料集のpdfが付属します。
舞台はカリフォルニア州オークランド、高校野球部の部員になった4人のアジア系アメリカ人少女達の交流を描いた物語です。特徴は2点で、周りに白人が全くいないぐらいにアジア率が高い地域を舞台にしていること、そして4人それぞれがバイだったりレズビアンだったりすることです。ただし、私はこれが百合恋愛物語であることを革新したのが終盤ぐらいであり、純粋な女の子の友情&青春物語として楽しむことができます。
良質な日本語翻訳で読めるアメリカ製百合系ビジュアルノベル
アメリカ産ノベルで気になるのは日本語訳の質ですが、とても良質です。「ジョークを上手く訳している」「スラングなども上手に伝わってくる」「ビジュアルノベルの枠組みをおさえた訳し方」です。ゲーム内でGoogle検索をしたような場面もありますが、ちゃんと日本語のGoogle検索に張り替えています。情報によると下地の英語もウィットに富んだジョークが聞いていて面白いらしいのですが、その内容を日本語で存分に味わえます。また、翻訳した日本語も簡潔で読みやすく、紛れもなく「プロの翻訳センス」。
常に攻撃的でナイフを忍ばせて、他人につっかかる韓国系ミンソ、大人しく人見知りが激しいインド系ディーヤ、いつも変なことばかり考えて奇行に走るタイ系アカーシャ、ガリ勉タイプでいつも他メンバーの奇行に困っている中国系ノエル。この4人のアジア系美少女たちの交流を描いていく物語です。
アカーシャはノエルへのからかいや自分の失敗をジョークで濁すなど一見バカに見えるキャラ。だけど何かシーンが白けると意図的に自分をピエロにしている感もあり、自頭は良さそうに描かれています。作中人物にも「本当は頭がいいけどバカなフリをする」と表現されており、一種のムードメイカーとなっています。
ミンソはアカーシャと反対に常識外のことを信じてメンバーに食ってかかるような超攻撃的なキャラ。だけど、メンバーの危機には超突猛進で解決をはかり、純粋さで喜怒哀楽が分かりやすいことに魅力があります。いわゆる愛すべき馬鹿。
ノエルは秀才です。初登場時でも数学の話をするなど典型的なガリ勉キャラとして描かれています。その一方仲間内では秀才故の冗談やいたずらを思いつくお茶目な面も見せてくれます。アメリカ映画で登場するテンプレート的なガリ勉キャラも深く付き合うと面白いキャラだと思わせてくれます。なお、メンバーにボケが多いのでツッコミ役。
そして、ディーヤ。大人しく人見知りが激しいキャラでそれぞれのキャラとの出会いも相手がディーヤに対して声をかけたことが始まり。人見知り故の初対面との会話の恐怖などが伝わり、反対に仲間達をすごく大事にしていることが分かります。他3人に比べると普通のどこにでもいそうな性格なのですが、3人の出会いのきっかけを作るなど存在感があります。
その他、サブキャラでミンソの兄やベースボールメンバーなども登場し、華やかな学園生活になります。
本作は一本道のビジュアルノベルです。選択肢はありますが、直後の会話に多少の変化がある程度で大筋は変わりません。また、通常の選択肢とは別に、1枚絵のバックグラウンドに数点クリックできる箇所を用意して場所移動や会話を発生させる場合も。
キャラの魅力を深めると言う意味ではLINEチャット風会話も面白い(厳密にはFacebook Messengerかと)。普段の会話では出てこない話題やスタンプ・写真を投稿した表現など、見ていて面白い内容ばかり。
ウィットに富んだジョークでキャラの魅力を引き出す面白さ
4人の会話は日常生活の楽しさが伝わるかのようなコミカルさとジョークを多用した会話のキャッチボールでできており、読みだすと笑いが止まりません。各々4人共が個性的であるため、ジョークを楽しんでいるとそれぞれのことが好きになるでしょう。
高校時代、ベースボールサークルに入団するきっかけから初練習試合が終了した少し後まで描かれます。その時系列を4分割し、各4人それぞれの誰かを主観(主人公役)にしながら物語は進みます。基本、全員が過去になんらか(親の抑圧など)を抱えており、各主人公時に小学校時代を描いています。そのキャラの現代の性格や価値観などがどのように形成されていたかの説得性が十分と言えるほどの内容であり、プロットの良さが伺えます。
▲ベースボールのまとめ役であるクリッサの自己紹介で良いエピソードを紹介しようと言う時に「幽霊が怖い」という弱みを新人にバラす友人。表現が面白い。
▲かっこよく決めたつもりが、周りの反応の白けで慌てるミンソ
▲三振空振りした時の言い訳。ちなみに三振するたびに毎回異なる言い訳を作ります。本人も周りも実力で失敗したと分かっているので完全にジョークですね。アカーシャはこういうジョークが得意。
▲馬鹿と天災のやり取り。ディーヤを介して知人として接している犬猿の仲。はたして2人が仲良くなる日はあるのでしょうか。
私達プレイヤーは会話を楽しむうちに、アメリカにおけるアジア人差別・性的マイノリティ差別、ベースボールによる青春スポ根(あまり根性は無いかも)などを少女視点から見ることになります。ただ、プレイヤーは難しい社会テーマと敬遠する必要はありません。これらは、あくまで読み進めるうちに伝わってくる内容であり、作品そのものはコミカル且つ青春物語なので、純粋なエンターテイメントとして楽しめるからです。ちなみに作者もアジア系アメリカ人のため、とてもリアリティがあります。
▲これらは政治的問題はゲーム中だとわずか数クリック分取り上げる程度で主張を押し付けてはきません。ただ、登場人物の内面描写は、大きく影響を受けています。
欧米人にとっては、アジア系アメリカ人と言う異文化を知るゲームにもなりますが、私達日本人にとっては、合わせてビジュアルノベル好きな方がアメリカ人と言う異文化を知るゲームにもなります。日本の学校とは異なるアメリカの学生生活、反対にどこの国でも同じような親と子の確執、アメリカ社会の人種差別などなど。海外ドラマなど白人から見たアメリカ、教科書で知る堅苦しいアメリカとは大きく異なった現地人による人間味のあるマイノリティ達の生活は知的好奇心をくすぐります。
▲ここ以外の地区に暫く引っ越していたミンソが感じた白人による差別。ちなみに攻撃的なキャラなので、そんな奴らに屈することは無く……。
▲インド系アメリカ人だけど、現地の言葉を喋れるとは限りません。2世3世あるあるネタ。
なお、メイン4人のうち2人が一区切りつき、新たな出発点となる終わり方、2人はテーマが未解決という状態で終了します。またベースボール関係は、まだまだ大会にも出ていないひよっこ状態。と明らかに続編がありそうな終わり方で、Wikipediaによると2019年夏に続編が公開される予定であるとのこと。今から待ち遠しいけど、きっと初版は日本語ないよね……。
プレイ時間は3時間ほど。4人共個性的で生き生きとしていて、そんな彼女達の生活は私達日本人から考えると刺激的な話ばかり。色々書きましたが、伝えたかったのは「コメディ重視のエンターテイメント性」「異文化を知ることの好奇心」の2つ。貴重な日本語訳良好な欧米ビジュアルノベルと言う意味でも、読んでみて欲しい作品です。
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itch.io:Butterfly Soup by Brianna Lei